会社員のときは案内が来れば受けていた健康診断も、フリーランスになると誰も声をかけてくれません。受けたほうがいいとは思いつつ、どこで受けるのか・いくらかかるのか・経費になるのかが分からず、後回しにしている方は少なくありません。フリーランス・個人事業主が健康診断をどこで受けられるか、自治体の制度を使って費用を抑える受け方、本人分が経費になるのかまでを整理します。後回しにしていた健診に、自分のペースで踏み出せるようになります。
フリーランスに健康診断の義務はある?
フリーランス本人に、健康診断を受ける義務はありません。だからこそ、受けるかどうかも受け方も自分で決める前提に切り替わります。義務がないという事実を、まず正確に押さえておきます。
労働安全衛生法は、事業者に対して、雇っている労働者の健康診断を実施する義務を定めています。義務がかかるのは事業者と労働者の関係であり、個人で事業を営むフリーランス本人には及びません。ただし2026年4月施行の改正で、フリーランスも安全衛生の保護対象に加わりました。詳細はフリーランスも労災保護の対象に(改正労働安全衛生法)で整理しています。
言い換えると、健診を受けるか受けないかはフリーランスの自由です。誰も案内をくれない代わりに、自分のタイミングで設計できる働き方とも言えます。
一方で、働けなくなれば収入がそのまま止まりやすいのがフリーランスの特徴です。体調の管理が、事業を続けられるかどうかに直結します。健診は将来の収入を守るための情報収集、という位置づけで考えると動きやすくなります。

健診の義務がないことは、受けなくてよいことと同じではありません。義務がないからこそ、受診のタイミングを自分で決める必要が出てきます。まずは自分が最後にいつ健診を受けたかを思い出すところから始めてみてください。
フリーランスの健康診断はどこで受ける?
フリーランスが健診を受ける先は、大きく3つに分かれます。費用の安さと自由度が異なるため、安く受けられる順に整理します。自分の加入状況に合うものから検討すると選びやすくなります。
自治体の特定健診とがん検診
国民健康保険に加入していれば、お住まいの市区町村が実施する特定健康診査の対象になります。特定健康診査・特定保健指導の対象は、40歳以上75歳未満の被保険者と被扶養者です。
特定健診はメタボリックシンドロームに着目した検査で、無料か数百円程度の自己負担で受けられる自治体が多くあります。あわせて、市区町村は胃・肺・大腸・子宮頸・乳房といったがん検診も実施しています。国保のフリーランスがもっとも費用を抑えて受けられるのが、自治体の特定健診とがん検診です。
ただし対象年齢や自己負担額は自治体ごとに違います。お住まいの市区町村のサイトで、対象になっているかと費用を確認するのが入り口になります。
国民健康保険組合や協会けんぽ
業種別の国民健康保険組合に入っている場合や、家族の扶養として協会けんぽ・健康保険組合に入っている場合は、健診の補助を受けられることがあります。加入先によっては、特定健診に上乗せした項目を低額で受けられる仕組みが用意されています。
自分がどの公的医療保険に入っているかで、使える健診は変わります。国民健康保険や国保組合、協会けんぽといった制度の違いは、フリーランスの社会保険の仕組みと加入する保険の選び方で整理しています。加入先の窓口やサイトで、健診の案内が出ていないかを確認してみてください。
病院やクリニックの健診や人間ドック
加入している保険に関係なく、病院やクリニックで自費の健診や人間ドックを受ける方法もあります。検査項目を自分で選べて、人間ドックなら胃カメラや各種がんの検査まで踏み込めるのが特徴です。
自由度が高い分、費用はもっとも高くなるのが自費で受ける方法です。気になる項目を重点的に調べたい人や、自治体の対象年齢に当てはまらない人の選択肢になります。まずは自治体の制度で受けられる範囲を確認し、足りない部分を自費で補う、という順番で考えると費用を抑えやすくなります。

受診先を選ぶときは、いきなり人間ドックを検討するのではなく、自分が今入っている保険から逆算すると迷いません。国保なら自治体の特定健診、扶養なら家族の保険の補助、と当てはめていくと、もっとも安い選択肢が見えてきます。
健診で調べる主な項目
健診で何が分かるかを知っておくと、受ける意味と項目の選び方がはっきりします。一般的な健診は、生活習慣病の兆候を早めにつかむための検査が中心です。受診先を決めたら、何を調べるのかも合わせて把握しておくと選びやすくなります。
一般的な健診で調べる主な項目は、次のとおりです。
| 検査項目 | 主に分かること |
|---|---|
| 身体測定(身長・体重・腹囲) | 肥満やメタボリックシンドロームの傾向 |
| 血圧測定 | 高血圧の傾向 |
| 血液検査(血糖・脂質・肝機能) | 糖尿病や脂質異常、肝機能の状態 |
| 尿検査 | 腎臓の働きや糖の状態 |
| 問診 | 生活習慣や自覚症状の有無 |
特定健診は、メタボリックシンドロームに着目した基本項目で構成されています。生活習慣病の予防に必要な範囲をおさえる内容で、フリーランスがまず受ける健診として十分なボリュームです。
一方、人間ドックでは基本項目に加えて、胃カメラや各種のがん検査といった踏み込んだ検査を追加できます。調べたい項目を増やすほど、費用も時間もかかるのが人間ドックの特徴です。気になる症状や家族の病歴があれば、基本の健診に必要な検査だけを足す、という選び方をすると過不足なく受けられます。
健診は一度受けて終わりにせず、定期的に受けて数値の変化を追うことに意味があります。年齢を重ねるほど、生活習慣病やがんを早く見つけられることの価値は大きくなります。

検査項目は、多ければよいというものではありません。まずは特定健診などの基本項目で全体像をつかみ、気になる部分だけを人間ドックで深掘りする、という順番にすると、費用を抑えながら必要な情報を得られます。健診結果は手元に残し、前回と見比べる前提で受けてみてください。
健康診断にかかる費用と抑え方
健診の費用は、どこで受けるかで大きく変わります。全国一律の相場があるわけではなく、自治体や医療機関ごとに金額が異なるのが実態です。だからこそ、安く受けられる制度を知っているかどうかで負担が変わります。
費用の相場
自治体の特定健診は、無料または数百円程度の自己負担で受けられるところが多くあります。がん検診も、数百円から数千円程度の自己負担で受けられるのが一般的な目安です。いずれも自治体ごとに金額が決まっているため、正確な額はお住まいの市区町村のサイトで確認する必要があります。
一方、病院やクリニックの自費健診は、検査項目を増やすほど費用が上がります。一般的な項目だけなら数千円程度から、人間ドックで詳しく調べると数万円程度になることもあります。同じ健診でも、自治体の制度を使うか自費で受けるかで負担は大きく変わるため、まず自治体の制度から確認する価値があります。
自治体の補助や助成金を使う
費用を抑える基本は、自治体や加入先の補助を先に使い切ることです。市区町村は特定健診やがん検診の費用を補助しており、対象者には無料クーポンを配る自治体もあります。検索で「個人事業主 健康診断 無料」「助成金」と出てくる選択肢の多くは、自治体のこうした制度を指しています。
国民健康保険組合や協会けんぽに入っている場合は、加入先独自の健診補助がないかもあわせて調べてみてください。補助は自分から申し込まないと使えないのが共通点です。会社員のように案内が届くわけではないため、お住まいの市区町村のサイトと加入先の窓口を、年度初めに一度チェックする習慣にしておくと取りこぼしを防げます。

費用で迷ったら、金額の大小を比べる前に「自分が使える補助は何か」を先に調べるのが近道です。自治体の特定健診やがん検診の補助を確認し、足りない検査だけ自費で足す、という順番にすると、必要な検査を受けながら出費を抑えられます。
フリーランスの健康診断は経費にできるか
健診の費用を経費にできれば、と考える方は多くいます。結論から言うと、フリーランス本人の健康診断費用は、原則として経費にできません。理由と、例外にあたるケース、別の税制ルートを順に整理します。
本人分は原則経費にできない
健康診断は、事業のためというより事業主個人の健康管理のための支出とみなされます。事業との直接の関連が認めにくいため、本人分の健診費用や人間ドック代は、原則として必要経費にはなりません。
経費になるかどうかは、支出が事業と直接結びつくかで判断されます。何が経費になり何がならないかの線引きは、フリーランスが経費にできるものとできないものの判断基準で詳しく整理しています。健診費用も、同じ判断基準のなかで「事業主個人の支出」に分類される、と考えると理解しやすくなります。
従業員がいる場合は福利厚生費
従業員を雇っている場合は、扱いが変わります。一定の要件を満たせば、従業員に受けさせる健康診断の費用を福利厚生費として経費にできる場合があります。
要件の中心は、全従業員を対象にすることと、常識的な金額の範囲に収めることです。特定の人だけを対象にしたり、高額な人間ドックを役員だけに受けさせたりすると、福利厚生費として認められない可能性があります。1人で活動するフリーランスには当てはまらない論点ですが、人を雇い始めたときに思い出せると役立ちます。
セルフメディケーション税制を使う
健診費用そのものは経費にできなくても、健診を受けていることが別の節税につながるルートがあります。セルフメディケーション税制です。
セルフメディケーション税制は、健康診断や予防接種などの「一定の取組」を行っている人が、対象の市販薬の購入費について医療費控除の特例を受けられる制度です。
出典:No.1129 特定一般用医薬品等購入費を支払ったとき(医療費控除の特例)【セルフメディケーション税制】|国税庁
注意したいのは、健診費用が控除されるわけではない点です。健診を受けていることが、市販薬の購入費を申告するための要件になる、という関係です。控除の金額や確定申告での具体的な手順は、フリーランスの確定申告のやり方と必要書類で確認できます。健診を受けたら、領収書や結果を確定申告まで保管しておくと使える可能性が残ります。

本人分は経費にできないと聞くと損な気がしますが、健診は経費かどうかで判断するものではなく、事業を続けるための投資と考えるのが実態に近いです。経費にならないからと受けない判断をするより、セルフメディケーション税制のような使える制度を押さえておくほうが、結果として手元に残るお金は増えます。
まず自治体の健診から受けてみよう
フリーランスの健康診断は、義務がない代わりに、受け方も費用の抑え方も自分で選べる働き方になっています。働けなくなれば収入が止まりやすいフリーランスにとって、健診は将来の収入を守るための自衛策です。
整理すると、
- フリーランス本人に健診を受ける義務はなく、受け方は自分で設計する
- 受診先は3つあり、安い順に自治体の特定健診・国保組合や協会けんぽの補助・病院の自費健診となる
- 健診で分かるのは生活習慣病の傾向が中心で、人間ドックなら胃カメラやがん検査などを追加できる
- 全国一律の相場はなく、自治体の補助を先に使えば無料から低額で受けられる
- 本人分は原則経費にできないが、健診を受けていればセルフメディケーション税制の要件を満たせる
まず動くなら、お住まいの市区町村のサイトで特定健診とがん検診の対象・費用を調べ、対象になっていれば予約するのが、もっとも費用を抑えやすい一手です。会社員のときと違って案内は届きませんが、受けるタイミングを自分の都合で決められます。

健診を後回しにしてしまうのは、受け方が分からず手が止まっているケースがほとんどです。まずは市区町村のサイトで特定健診の案内を1つ開いてみてください。対象と費用が分かれば、予約までは一気に進みます。完璧な人間ドックを目指す前に、安く受けられる健診から始めるのが現実的です。
※本記事の内容は2026年5月時点の情報にもとづいて執筆しています。健診制度や自治体ごとの費用・対象、税制は変更される場合があります。最新情報は厚生労働省・国税庁およびお住まいの市区町村の公式サイトをご確認ください。
